著述家の視点 岸朝光のブログ

著述家の岸朝光が、社会でおこる様々問題を取り上げ、独自の視点で考察します

郵便局をのぞいてみたら労働トラブルが見えてきた

昨年のブラック企業大賞で、ウェブ投票ダントツの1位となり、特別賞を受賞した日本郵便。得票数では2位にダブルスコアをつけており、職場で働く人々の怨嗟の声が反映されたものとなりました。
それほど多くの得票を得た日本郵便ですが、調べれば調べるほど異常な職場環境であり、労働トラブルをめぐっての裁判例も多い会社です。

そこで一体どのような労働トラブルが、郵便局で発生してきたのかを紹介していきます。
今回は日本郵便が、ブラック企業大賞にノミネートされる理由となった飯塚郵便局でのパワーハラスメント事件についてです。

飯塚郵便局局長によるパワーハラスメント

飯塚郵便局長のパワーハラスメントをめぐっては、すでに民事訴訟が被害者遺族から起こされており、飯塚郵便局に勤務していた当時41歳の男性局員が、不整脈によって突然死したのは局長らのパワハラに原因あるとして、遺族が日本郵便に対して1億円の損害賠償を求めています。

突然死した男性局員は、平成23年4月から飯塚郵便局に勤務していましたが、6月にうつ病を発症して休職。休職中の12月に飯塚郵便局駐車場で致死性不整脈を発症し、停車中の車内で亡くなりました。

裁判では局長によるパワハラが次々と明るみにされ、2審の福岡高等裁判所の判決までに局長の言動2つがパワハラと認定されています。まずこの裁判の加害者である飯塚郵便局長が、突然死した男性局員に対して、どのようなパワハラをおこない、うつ病を悪化させたのかを以下に挙げていきます。

いつ辞めてもらってもいい

飯塚郵便局に異動してきた男性局員は、保険渉外支援業務に従事していましたが、平成23年5月に郵便窓口への業務変更を申し出ました。それに対して局長は

「いつ辞めてもらってもいい」

と返答し、男性局員からの申し出を検討せずに拒否しました。
局長は異動して不慣れな業務に従事する男性局員に、何ら配慮することはせず、業務変更を希望する願いを一蹴したのです。しかも局長の職権(パワー)を背景に弱い立場の男性局員に対して雇用不安を煽るような発言で、大きな心理的負荷を与えました。

これは職場を統括・管理して、労働者の職場環境に配慮すべき局長の対応とは到底思えません。この不適切な発言が裁判でパワハラ認定されたのですから、飯塚郵便局の職場環境は極めて劣悪といえるでしょう。まさに典型的なパワーハラスメントであり、当時の郵便局会社が、管理監督者にどのような管理職教育していたのかと、問いたくなるような事実です。

あんたが出てきたら皆に迷惑がかかる

局長のパワーハラスメントにより、男性局員はうつ病を発症して平成23年6月から休職します。

病気療養のため休職中であった局員は、同年10月に局長と面談して復職を申し出るのですが、その際に

「繁忙期だから耐えられないだろう。あんたが出てきたら皆に迷惑がかかる。罵声が飛ぶもしれない」

と申し出を拒否するどころか、復職した場合には罵声を浴びせると脅して局員に心理的負荷を与えたのです。当然裁判所もこの発言に関して

「復職を諦めさせる目的の脅迫にも当たり、著しく配慮を欠く極めて不適切なものだ」

と断じています。

復職する際には、職場復帰支援プログラムなどに沿ったかたちで、徐々に仕事を慣らしていくことが使用者には求められます。しかし局長はそうした配慮すらせず、復職して迷惑をかけたら恫喝するぞと脅迫したのです。この発言は裁判所が判断しているように、男性局員のうつ病を悪化させたものであり、かつ復職を諦めさせるという目的をもった極めて悪質なものです。

朝礼での土下座強要

局長は平成23年6月、朝礼において男性局員とは別の局員に対して、その場で土下座を強要しました。これも職権を背景にして、立場の弱い労働者に土下座を強要した典型的なパワーハラスメントといえます。特に局長から雇用不安を煽れていた男性局員にとっては、土下座強要という衝撃的出来事を目撃して、飯塚郵便局で働くことの苦痛を感じたはずです。

この土下座強要に関して裁判所は

局長の職員に土下座をさせるという社会的相当性を欠いた本件言動に直面した男性局員が、息苦しさを覚えたものであり、本件言動を目撃した男性局員が精神的苦痛を被ったことは優に推認され、局長による本件言動とこれにより男性局員が被った精神的苦痛及び男性局員のうつ病の増悪との間には、相当因果関係が認められる

 と判断しています。

日本郵便は局長教育の場で安全配慮義務不法行為について教示すべき

飯塚郵便局長によりパワーハラスメント事件では、男性局員の死亡とパワーハラスメントとの因果関係は認められていませんが、局長による加害行為がうつ病を悪化させたと認められています。

裁判所は認定した2つのパワーハラスメントを、民法709条の不法行為に該当すると判断しています。不法行為とは他人の利益や権利を侵害する行為をいい、このケースでは、業務変更や職場復帰を希望する男性局員の権利を、局長は不適切な言動(パワハラ)によって侵害したと判断されました。

また土下座強要についても裁判所は、その場にいたすべての職員に対する不法行為であり、この不法行為は労働契約法が定めた安全配慮義務にも違反していると判断しています。局長のパワーハラスメントによって、その場にいた局員の健康は害されたのです。

この事件は、広い裁量権を持つ郵便局長によっておこなわれた典型的なパワーハラスメントです。典型的な事件を予防できずに発生させた日本郵便は、局長らの管理職教育をどのようにおこなっていたのでしょうか。職権を背景にパワハラは絶対におこなってはならないと、厳しく教示していたのでしょうか。
飯塚郵便局だけではなく、他の郵便局でも安全配慮義務違反があったとして訴訟が起されています。日本郵便はその現実を直視して、再発防止のための厳しい局長教育をおこなわなければ、郵便局でのパワハラは減少しないでしょう。

郵便局の業務は労働集約型であり、経営資源であるヒトに対する配慮は、どの企業よりも求められます。しかし労働者の職場環境を配慮せず、一部の管理監督者の専横を許してきたツケが、今になって残念なかたちで現れています。

パワハラ根絶こそが、日本郵便が取り組むべき喫緊の課題であることは、いうまでもありません。

 

参考サイト

www.ik-law-office.com