著述家の視点 岸朝光のブログ

著述家の岸朝光が、社会でおこる様々問題を取り上げ、独自の視点で考察します

会社は労働者を簡単にクビにはできない

ワンマン経営者が

「もうおまえなど会社に来ないでいい!出ていけ!」

と労働者を感情的に怒鳴りつけて、即日クビにすることは、最近では少なくなってきました。
ん?

「そうでもないぞ」という声が聞こえてきましたので調べてみましょう。

 

平成27年東京都産業労働局の統計では、解雇に関する相談が7千件を超えており、現在も多くの解雇トラブルが発生しています。もちろん寄せられた相談には即時解雇の事案も含まれていることでしょう。

 

統計のリンク

↓ ↓ ↓

www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp



即時解雇に限らず、会社が労働者をクビ(解雇)にするには、一定の条件が必要となります。経営者が労働者に対して感情的になり、即刻クビを告げたところで、クビが成立することは稀です。いや合法的には成立しないでしょう。

また現代は情報化社会ですので、クビを告げられた労働者もインターネットで色々と検索して、黙っていることの方が少ないのです。

経営者は、労働者が従順な子羊ばかりだと思っていたら、会社は与えた仕打ちの何倍の仕返しをされます。一昔前とは違うのです。

前置きが長くなりそうなので、これからタイトルの「会社は労働者を簡単にクビにはできない」について話を進めていきます。

少し長めの記事ですが、お付き合いください。

 

会社は労働者を解雇するには「客観的に合理的な理由」が求められる

解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

上に引用した文言は、労働契約法の第16条の条文です。とても分かりにくい文言ですが、労働者を解雇するには「客観的に合理的な理由」を欠いてはならないと条文が謳っていることは分かります。

会社が労働者を解雇する際に必要不可欠な「客観的に合理的な理由」とは一体どのような理由なのでしょうか?

 

解雇とは雇用契約が終了することです。そして雇用については、民法623条に規定されています。以下がその条文です。


雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。

 

民法では労働者が「労働に従事することを約し」て、会社が報酬を支払うことで雇用契約の効果が生ずると定めています。

要するに労働者が働く約束をし、会社が働きに応じて給料を支払う約束をすることです。

ただしこの条文に則れば、労働に従事することが長期間できない、または労働に従事しても業務の遂行が不完全(例えば勤務成績が著しく不良)な場合は、民法623条の定めを労働者が履行していないことになります。
労働者が労働に従事することを約しても、それが履行できなかったり、不完全であれば、労働に従事していることにはなりません。

 

では労働者が、病気などで長期間労働に従事することができない場合や、たった一度の勤務成績不良を起こした場合には、会社は労働者と雇用契約を終了することができるのでしょうか?


答えはNOです。

 

病気や勤務不良を理由に解雇しても「客観的に合理的」と判断されることはありません。

なぜでしょうか。

「客観的に合理的な理由」とは、就業規則などで労働に従事する上でのルールをあらかじめ定めておき、その定めに則り、あらゆる対策を講じたにも関わらず、労務の提供が不完全(または労務不能)であった場合に雇用契約を終了する原因となったものです。

雇用契約を終了する前に講じた適切な対策、そして対策の結果があって、はじめて解雇が「客観的に合理的」であると認められる可能性があるのです。
もちろん可能性があるだけで、適切な対策を講じただけでは解雇が認められるものではありません。そこに至る一つ一つの事実から、合理性の判断がおこなわれます。
経営者が、感情的におこなった解雇には合理性はありません。解雇に至るまでの間に、会社が解雇を回避しようと努力した「客観的に合理的な理由」が必要なのです。

 

労働者と使用者(会社)との間で、解雇をめぐって争いとなった場合、会社は合理的な解雇の理由を主張・立証しなければなりません。それができないケースでは、会社が解雇権を濫用した不当な解雇であると、労働者は強く主張すべきです。

 

さらに「社会通念上相当」であることも求められる

 先ほども取り上げた労働契約法16条の条文を再掲します。

解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 

労働者を解雇する際には「客観的に合理的」な理由だけではなく、「社会通念上相当」であることも求められています。
この「社会通念上相当」とは「解雇やむなし」という意味です。要するに世間一般的に見ても解雇やむなしであることを、会社は労働者と争いとなった場合、合理性とともに立証しなければなりません。

 

労働者が解雇無効を主張する際、社会通念上相当でない理由を述べなければなりませんが、その例としては
「会社側の教育や指導、職場におけるガバナンスが十分に発揮されていなかった。」
とか
「解雇処分を受ける前段の段階で、会社は適切な対応を怠った。」
などが挙げられます。

しつこいようですが、解雇は労働契約を終了することです。労働者の生活の糧が奪われるのですから、解雇されても仕方なしと納得できなけば、争って解雇権の濫用であるか否かの判断を紛争解決機関等に仰ぐべきです。

そこで会社が「会社としては、適切な対応を取ったにも関わらず、労働者に改善の余地が見られなかった」などの主張を展開してきた場合は、それが解雇やむなしとする理由ではないと反論するのです。

ところで世間一般的に見ても解雇やむなしとはいわれる例は

  • 経営者の恣意によらない解雇
  • 雇用契約書や就業規則に則った措置を講じて改善を図り、それでも改善が見られない場合の解雇

などが挙げられます。しかし解雇をめぐるトラブルでは、解雇やむなしとは考えられないケースがほとんどです。
先日、和解が成立した引越社関東の労働トラブルの発端は、労働者を懲戒解雇したことでした。引越社関東は懲戒解雇処分をすぐに撤回しましたが、撤回した理由は労働契約法で示されている解雇ルールを逸脱していることを会社側の弁護士に指摘されて、懲戒解雇は不適当と判断したものと述べています。
引越社関東のケースは懲戒解雇なので、普通解雇よりも解雇要件は厳しいものですが、普通解雇であっても使用者である会社が、いつでも解雇権を行使できるものではありません。

 

労働契約法は労働者保護法である

職場で上司や社長から「クビにするぞ」と脅され苦しんでいる労働者は、労働契約法の定めによって、会社が労働者を簡単にはクビにできないことを理解し、毅然としていましょう。
労働契約法は労働者保護法と位置づけられています。会社は労働者に下した処分が、権利の濫用でないと証拠などで立証できない場合に労働者を救済してくれるのがこの法律です。今回紹介した解雇ルールに限らず、他の条文も読み、会社よ何するものぞの心意気を持ってください。